福祉・医療

精神病院における〈慰安〉の展開 昭和初期の実践を紡いで

精神病院における〈慰安〉の展開 昭和初期の実践を紡いで

山田敏恵 著

発行年月:2026年5月

◆著者より(「はじめに」抄)
「精神保健医療福祉の課題の根底にある精神障害のある人に対する偏見は、非常に根深い。長い歴史の中で構築されてきた精神障害のある人、精神科病院に対する偏見、先入観を解くためには、長い時間と多大な労力が必要になる。この偏見、先入観をつくり出す要因には、疾患による症状、他の障害に比べて外見からの理解のしにくさ以外に、精神科病院の閉鎖的な環境、度重なる人権侵害、それらに関する報道、今まだ充分改善されたとはいえない状況がある。そして、精神科病院と、そこに受診・入院する人に対する「負のイメージ」を根づかせてきた。
 本書の研究対象時期の精神病院についての歴史的記述は、「負のイメージ」を一層強める劣悪な状況についての記述が多い。多くの先行研究や残された資料からその状況が明らかにされてきた。
 では、これまで明らかにされた劣悪な処遇だけだったのか、処遇に携わる者は病者を人としてみていなかったのか、過去の精神病院の入院者すべてが非人道的な扱いを受けていたのだろうか。反省しなければならない処遇のみだったのだろうか。
 いや、現在の社会福祉の理念に続く、人間らしい、人間としての処遇があったのではないか、という問いがこの研究の出発点である。その処遇実践こそ、社会福祉の理念形成・実践の基盤となる、「人」の尊厳を重んじる支援の源流ではないか、という仮説(「思い」といった方が正しいかもしれない)が筆者の中にあった。
 その根拠は、太平洋戦争開戦前の精神病院に関する文献に少なからずみられる「慰安」のことばである。「慰安」を通して病者が笑い、喜び、また快復する姿を見守る、「正のイメージ」を想起させる病院従業員の記述が残っている。」

≫「慰安」の実践を通して精神病者と向き合い、彼らの生活を少しでも向上させようと尽力した人たちがいた。
≫(明治期から)昭和戦前期の処遇の様子を伝える限られた実践記録を徹底的に読み解き、病者とその処遇に携わる者との関係性を明らかにする。
≫精神病者処遇史・社会福祉史研究に一生面を開くとともに、精神障害のある人を支援する人々への共感が込められた意欲作。

貝原益軒『大和本草』の漢方を読む 中国古典書への傾倒と自立化

貝原益軒『大和本草』の漢方を読む 中国古典書への傾倒と自立化

矢嶋道文 著

健康長寿のバイブル永遠のベストセラー『養生訓』の著者
貝原益軒(かいばらえきけん) 寛永7(1630)~正徳4(1714)
真の〈主著・ライフワーク〉晩年・畢生の大作
 『大和本草(やまとほんぞう)』全16巻
初の〈主要部・現代語訳〉付 書き下し・註
背景解説・新資料・年表等が充実の『大和本草』への最良〈本格〉の入門書

*中国本草学の集大成・李時珍『本草綱目』(1596)を徹底〈批判〉解読し、日本(大和)の本草学樹立を目指した益軒の『大和本草』(宝永5(1708)成稿)は、若年時から読み込んだ厖大な本草書群の粋と、医者としての見聞を最大限に盛り込んだライフワーク。
*江戸期隆盛の本草学・博物学の流れの中、医・儒としての益軒が捉え、実践した〈漢方〉とはいかなるものだったのか。民・俗のために著す益軒の真骨頂が結晶する様を追う。
*医薬論の根幹部と基礎理論編他を詳細に読解し、益軒の思想の本質に迫る意欲作、数年の熟考執筆をへて待望の刊行。

★最晩年の著『養生訓』(1712)は『大和本草』があって生まれた! 『養生訓』の深奥を理解するためにも『大和本草』は必読!

シリーズ福祉に生きる66 菊田澄江(再版)

シリーズ福祉に生きる66 菊田澄江(再版)

著者:遠藤久江

発行年月:2025年8月27日刊行

●菊田澄江(きくた・すみえ 1906~1995)
栃木県足利に牧師・森田金之助の次女として生まれ、大阪で育つ。ウヰルミナ女学校(現・大阪女学院)、大阪府女子専門学校(後の大阪女子大学、現・大阪府立大学)英文科卒業後、ウヰルミナ女学校英語教師となる。戦中に夫を亡くし、三児を育てながら、銀座に進駐軍向けのナオミ洋装店を開く。1951年12月、財団法人ナオミの会設立〈現在、社会福祉法人ナオミの会:本部、東京都世田谷区等々力。「ナオミ」は旧約聖書ルツ記にある未亡人の名〉。1954年、東京・世田谷に、キリスト教精神にもとづく、職業訓練のための母子寮ナオミホーム、ナオミ保育園を設立。全国初の病児保育や、産休明け乳児保育・0歳児保育等にも先駆的に取り組み、生涯を母子家庭の自立・子育て支援のために捧げた。

●再版にあたって(抄)(2025年8月 終戦の日に 遠藤久江)
ナオミの会の歴史を考える時、どうしても第二次世界大戦後の日本の姿を描きながら進めなければなりません。2025年は戦後80年目を迎え、戦争による破壊や荒廃は過去のものとなり、忘れられてきていますが、ウクライナの戦争やガザ地区での戦禍の現実が80年前の日本の姿を髣髴とさせます。1945五年の敗戦は生き残った者たちにとっては過酷な現実を生きのびるための闘いの日々の始まりでもあったのです。ナオミの会はそのような状況の中から生まれました。
今日のナオミの会は1カ所の母子生活施設、4カ所の保育園(2カ所の分園)を持つ大きな組織になりました。
ここ数十年の社会の変化には目を見張るものがあります。高度に発展した社会経済状況は人々の生活を豊かにしていますが、一方で持てるものと、持たざるものの格差を拡大させ、高度に発達しているデジタル社会は生活の利便性は高まっていますが、人間同士の感情の交流を不要とし、孤立感と疎外感を深める結果をもたらしています。
このような社会がもたらす意識の変化や生活スタイルの変化は、若い子育て世代に一番早く現われます。保育者はこの現実に向き合って親たちと協働している専門家集団です。親の子どもへの思いはさまざまですし、大事にしたい思いも多様です。この親たちと地域社会の子育てをしているナオミの会を継承しているものたちは菊田先生の歩みから大切にするべきものを見出していかなければなりません。」

民生委員制度の原点 岡山県済世顧問制度の通史的論究 現代地域福祉の視座を求めて

民生委員制度の原点 岡山県済世顧問制度の通史的論究 現代地域福祉の視座を求めて

著者:山本浩史

発行年月:2025年8月

「岡山県済世顧問制度は、1917(大正6)年に創設され、翌年に創設された大阪府方面委員制度と並び現在の民生委員制度の源流の一つとされている。全国民生委員児童委員連合会は済世顧問制度創設から数えて、2017(平成29)年を民生委員制度100周年としている。また済世顧問制度が公布された5月12日を民生委員・児童委員の日とし、5月18日までを活動強化週間としている。このように、現在でも民生委員制度の原点として認知されている済世顧問制度であるが、その全体像が必ずしも明らかにはされておらず、先行研究の数もそれほど多くはない。このことから、本研究では済世顧問制度の全体像を明らかにすることを第一義的な目的とした。
 また済世顧問の思想や人物像、そして、その実践を検証することは、民生委員の原点にアプローチすることにもつながり、どのような過程を経て、現在の民生委員制度にたどり着いたのか、民生委員制度発祥の地とされる岡山県を事例として見て行くことにもなる。」(「はじめに」より)
 一次資料から抽出構成した多数の図表を収載し、初めて制度変遷の実情を克明に跡づける労作。

看護・保育・福祉・教職課程のためのセクシュアリティ論ノート

看護・保育・福祉・教職課程のためのセクシュアリティ論ノート

著者:益田 早苗

発行年月:2025年4月・修訂3刷

“人間の性:ヒューマン・セクシュアリティは人間が生きる事そのものである”
対人援助の職種(看護・保育・介護・教育など)を目指すすべての人が、「セクシュアリティ」に関する「知識と介入スキル」の基本を習得するためのテキスト。永年の教授経験から生み出された事例をもとに学び、考える、実践的な書。この分野では数少ないテキスト。
近年大きな議論となっている包括的性教育やLGBT に代表されるセクシャルマイノリティに関する既述個所を加筆修訂した。

少年行刑の歴史からみる知的障害者福祉の萌芽

少年行刑の歴史からみる知的障害者福祉の萌芽

著者:末松惠

発行年月:2022年3月

(「序章」より)
 近年、社会福祉専門職の職域は、従来の福祉分野にとどまらず、労働・教育・司法・保健医療等へと拡大されつつある。そのなかでもとりわけ、福祉分野と司法分野との連携・協同という古くて新しい課題が注目され、更生保護施策における新たな支援枠組みに関する検討がすすめられている。「古くて新しい」というのは、非行や犯罪に関わった人々の社会復帰に向けた援助は明治大正期にまで溯るのであり、これまでに、出獄人保護事業や感化事業など司法領域における福祉的な対応が模索されてきたということである。また、近代初頭の少年行刑・感化矯正のもとでなされた知的障害者処遇には、処罰にとどまらない保護的・教育的な視点がみられ、ここに知的障害者福祉の萌芽的状況をとらえることができる。しかしながら、これまでの知的障害者福祉研究では、当時の処遇に関する検討が十分になされたとはいいきれない。福祉と司法の連携・協同が模索される現在、福祉的な視点と司法的な視点とが未分化であった近代初頭の知的障害者処遇からは、いかなる示唆が得られるであろうか。本書は、こうした問題意識に依拠しつつ、近代初頭の少年監獄における知的障害者処遇の形成過程を解明することによって、知的障害者福祉研究の進展に貢献することを目的としている。

 少年監獄における知的障害者処遇を解明するにあたり、本研究では浦和監獄川越分監を取り上げる。その理由は、川越分監では、「低能者研究」「低能者特別教授」等、知的障害者に対する処遇がいちはやく実施され、ある一定の組織だったアプローチが展開されていたためである。このことは、川越分監が我が国最初の幼年者対象の監獄として設置され、監獄改良の主眼であった懲治人教育が実験的におしすすめられていたことと深く関連している。またそうした位置づけゆえに、川越分監は「先進川越」として、全国の他の少年監のモデルともされていた。これらのことから、浦和監獄川越分監が知的障害者処遇の嚆矢として、それ以降の少年行刑にも一定の影響をもたらしたことが予想される。そうした意味から、川越分監の諸実践に焦点をあて、知的障害者処遇の起点とその具体的なありようを把握していくことは知的障害者福祉の歴史研究において不可欠な作業であると考える。

私の記録、家族の記憶 ケアリーヴァーと社会的養護のこれから

私の記録、家族の記憶 ケアリーヴァーと社会的養護のこれから

著者: 阿久津 美紀

発行年月:2021年8月

◆なぜ“記録”が「社会的養護」にとって重要なキー概念なのか?
史資料の記録・保存・利活用を研究するアーカイブズ学の知見で見えてくる。“記録”にアクセスする側(当事者)/“記録”作成・管理に携わる側、双方にとって「公正・公平」な環境をいかに構築するか、施策はどうあるべきか……。

◆ケアリーヴァー care leaver のための“記録 records”への安定したアクセスを目指して、現状の課題を明らかにし、将来へ向けての提言を示す。社会福祉・社会事業分野とアーカイブズ学との有機的連繋、初の成果。

●世界(イギリス、オーストラリア、韓国)は、日本は? 考える第一歩に本書をまず手にとってみてください。社会事業・福祉、児童養護等に関わる組織・団体・施設・行政関係から研究者まで、じわじわと読者が広がっています。

「劣等児」「特別学級」の思想と実践

「劣等児」「特別学級」の思想と実践

著者: 阪本 美江

発行年月:2021年5月

教育と思想、教育と政策・制度、教育と社会。その中の児童と家庭と、目の前の現実に正面から立ち向かう教師たち…。
“奈良県”から見えてきた、大正末から昭和初期日本の教育“現場”の実態を、一次資料で浮き彫りにし、課題を鮮明化する。
近代日本教育史の一隅に響く、思想と実践の相克を、丁寧にたどって見えてきたものとは…。
「劣等児(学業不振児)」のための「特別学級」は、過去の〈終った〉歴史ではない。

京都「特別学級」成立史研究―史料と論究

京都「特別学級」成立史研究―史料と論究

著者:玉村公二彦

発行:2021年2月

「特別学級」その発想の端緒は? 設置と運営を担った人々の模索と苦闘の跡を語る、稀有な史料を一挙復刻し辿る、初の京都「特別学級」実践概史。
明治期から障害児者の教育・保護事業に先駆的に取り組んでいた地、京都――戦前戦中期に「特別学級」の設置と実践を旺盛に展開したのも京都だった。小学校・児童の「特別学級」実践と模索を跡づける、現場を担った教師や京都市関係者の残した稀少で貴重な史料を一堂に会し、その意義を確認し、後世への遺産として復刻する。

戦前日本社会事業調査資料集成 別巻(調査資料文献/概要)

戦前日本社会事業調査資料集成 別巻(調査資料文献/概要)

編者:社会福祉調査研究会

発行年月:2019年12月

戦前期(明治後半~ 1945年8月)の社会事業(社会福祉)調査資料文献約1,300点の概要をまとめた。
本書と「補巻(災害救助)」で、シリーズ『戦前日本社会事業調査資料集成』が全巻完結、1~10巻(勁草書房 1986-95)所蔵先には必備。
社会事業、福祉・慈善事業から経済・社会・思想・民衆・生活・医療・教育・地方・労働・貧困・災害等々、近代日本の「実態」を伝える〈調査〉史料を網羅的に解説、集成するシリーズ。