「劣等児」「特別学級」の思想と実践

著者: 阪本 美江

発行年月:2021年5月

価格:4,400円(本体4,000円+税10%)

ISBN:978-4-908926-52-5

体裁:A5判・280頁・上製・カバー装

特記:2021年度・日本特別ニーズ教育学会文献賞受賞

「劣等児」「特別学級」の思想と実践

教育と思想、教育と政策・制度、教育と社会。その中の児童と家庭と、目の前の現実に正面から立ち向かう教師たち…。
“奈良県”から見えてきた、大正末から昭和初期日本の教育“現場”の実態を、一次資料で浮き彫りにし、課題を鮮明化する。
近代日本教育史の一隅に響く、思想と実践の相克を、丁寧にたどって見えてきたものとは…。
「劣等児(学業不振児)」のための「特別学級」は、過去の〈終った〉歴史ではない。

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【関連領域】教育史、公教育、新教育、特別支援教育、精神薄弱児(者)、近代史、大正デモクラシー、思想、教育行政・政策、養護…

【キーワード】文部官僚、奈良・東京・京都、障害児教育、個人と国家、遺伝と優生学、格差(教育、学力、経済、社会)、知能検査、個性尊重、綴方・読方教授、労作教育、映画教育、学級編制…

【取り上げられた主な校名・人名等】
(奈良県) 奈良女子高等師範学校附属小学校、桜井尋常高等小学校、
治道尋常高等小学校、奈良師範学校、(東京市) 東京高等師範学校附属小学校、林町尋常小学校、万年尋常小学校、青木誠四郎、乙竹岩造、小原國芳、笠原道夫、木下竹次、黒沼勇太郎、ゴダード、小林佐源治、齋藤千榮治、斎藤諸平、眞田幸憲、清水甚吾、杉田直樹、関野嘉雄、田村一二、デューイ、乗杉嘉壽、樋口長市、ヘルバルト、脇田良吉、京都市特別児童教育研究会、文部省社会教育課…

【目次】
「序」西村拓生/はしがき/凡例

序章 実態の把握から課題の設定へ 1
0.1 前史
0.2 先行研究の検討
0.2.1 「特別学級」の対象、形態、目的
0.2.2 都道府県単位の「特別学級」史研究
(1) 市澤豊による北海道における「特別学級」史研究
(2) その他の都道府県単位の研究
0.2.3 戦前における「特別学級」開設の要因と「新教育」との関係
(1)戸崎敬子が論じる「特別学級」開設の要因
(2)「特別学級」と「新教育」の関係に関する他の先行研究の指摘
0.3 本書の課題
(1) 奈良県における実態の解明
(2) 「劣等児」(「低能児」)とはどのような児童たちか
(3) 「劣等児」を生じさせた要因としての家庭環境の問題
(4) 「特別学級」開設を促した要因
(5) 文部省の施策
(6) 「新教育」と「特別学級」
0.4 本書の構成
第1部(第1・2章)
第2部(第3・4章)
第3部(第5~7章)
第4部(第8~10章)

第1部 戦前における「特殊教育」政策と「劣等児」観
第1部(第1・2章)課題 
第1章 大正デモクラシー期の文部省関係者の「特殊教育」観  35
1.1 明治から昭和戦前期における文部省の「特別学級」に関する施策
1.2 青木誠四郎について
  1.2.1 青木誠四郎の経歴と教育観
  1.2.2 青木誠四郎の「劣等児」「低能児」概念
  1.2.3 文部省嘱託時代の青木誠四郎の「特殊教育」観
1.3 乗杉嘉壽について
  1.3.1 乗杉嘉壽の経歴と欧米視察前の教育観
  1.3.2 欧米視察後の乗杉嘉壽の「特殊教育」観
  1.3.3 J.デューイの影響
1.4 「特殊教育」における民主主義的発想への抑圧
1.5 青木と乗杉の「特殊教育」観の特徴

第2章 戦前における「劣等児」「低能児」認識  56
2.1 脇田良吉の「劣等児」「低能児」論
  2.1.1 脇田良吉の理論形成:乙竹岩造や欧米の影響
  2.1.2 脇田良吉の「劣等児」論
2.2 東京高師附小の「劣等児」「低能児」論:同校「特別学級」担任等の理論に着目して
  2.2.1 東京高師附小における「特別学級」の開設
  2.2.2 東京高師附小の「劣等児」「低能児」論
   (1)樋口長市の「劣等児」「低能児」論
   (2)小林佐源治の「低能児」論
   (3)黒沼勇太郎の「劣等児」論
第1部(第1・2章)まとめ

第2部 大正末期から昭和初期における
文部省全国調査にみる「特別学級」の全国的傾向と文部省「推奨校」治道尋常高等小学校の実態
第2部(第3・4章)課題
第3章 大正期末から昭和初期における文部省全国調査の概要:1924年発行『特別学級編制に関する調査』に着目して  87
3.1 文部省全国4調査の概要
3.2 全国の「特別学級」編制校数
3.3 「特別学級」に入級する児童の選定法と担任教員
3.4 「特別学級」施設の効果
3.5 将来の計画

第4章 文部省「推奨校」としての治道尋常高等小学校  93
4.1 「特別学級」の指導目標と入級児童選定法
4.2 「特別学級」編制の背景と「父兄」の理解
4.3 「特別学級」の編制法
4.4 教授上の注意点並びに担任教員の資格等
4.5 「特別学級」施設の効果
第2部(第3・4章)まとめ

第3部 奈良女高師附小訓導齋藤千榮治の「劣等児」「低能児」論とその展開:京都市の小学校における齋藤の理論や実践の継承に着目して
第3部(第5~7章)課題
第5章 奈良女高師附小「特別学級」の開設  113
5.1 「特別学級」開設の背景と根拠
5.2 奈良女高師附小「特別学級」開設の経過


第6章 「特別学級」の概要と齋藤の「劣等児」「低能児」論  119
6.1 「特別学級」収容候補児童への諸調査の実施
6.2 齋藤の「劣等児」「低能児」論
6.3 教授方法:「読方教授」に着目して
6.4 「人道上」「社会政策上」における教育の必要性と「日常生活」に即した教育の重視

第7章 京都市の小学校における「特別学級」の実践:田村一二との関係に着目して  127
7.1 京都市での「特別学級」の実践
7.2 滋野小学校「特別学級」開設と田村一二との関係
  7.2.1 滋野小学校の「特別学級」開設と齋藤が掲げた教育方針
  7.2.2 滋野小学校時代の田村の教育論
  7.2.3 田村の障害児(者)支援教育論に見る齋藤の影響
第3部(第5~7章)まとめ

第4部 桜井尋常高等小学校の「特別学級」と「新教育」
第4部(第8~10章)課題
第8章 桜井小学校の「新教育」  157
8.1 桜井小学校における「新教育」の理念
8.2 桜井小学校における「新教育」の実践
  8.2.1 ドルトン・プランにもとづいた「自由学習」
  8.2.2 「芸術教育」の実践
  8.2.3 「綴方教育」の実践
  8.2.4 「映画教育」の実践
  8.2.5 「労作教育」の実践
  8.2.6 全国初等教育研究会の開催
8.3 奈良師範からの影響
8.4 奈良女高師附小との関係
8.5 当時の桜井の地域性
8.6 「新教育」と国家主義の葛藤

第9章 西久保奈良石における「劣等児」概念と「低能児」概念  181
9.1 「劣等児」の特徴
9.2 「劣等児」の心理
9.3 「劣等児」発生の原因

第10章 桜井小学校における「特別学級」の実態と思想  189
10.1 「特別学級」の編制
10.2 「特別学級」内の分団化
  10.2.1 「分団教育」の実際
  10.2.2 分団化に見られる優生学的発想
10.3 「劣等児」の教育方法の一例
10.4 「促進学級」の一例
10.5 「劣等児」と家庭の生活状況
10.6 諸調査の実施と「劣等児」の顕在化
10.7 「劣等児」教育を主導した西久保訓導の思想
第4部(第8~10章)まとめ

終章 「特別学級」史研究が問うものとは  218
11.1 第二の隆盛期における奈良県の「特別学級」の実態
  11.1.1 戦前における「特殊教育」政策と「劣等児」観
  11.1.2 大正期末から昭和初期における文部省全国調査にみる「特別学級」の全国的傾向と文部省「推奨校」治道尋常高等小学校の実態
  11.1.3 奈良女高師附小「特別学級」における理論と実践の展開:齋藤千榮治に着目して
  11.1.4 桜井小学校の「新教育」と「特別学級」
11.2 当時の「劣等児」観と「劣等児」「特別学級」の特徴
  11.2.1 当時の「劣等児」観
   (1)齋藤千榮治の「劣等児」「低能児」認識
   (2)西久保奈良石の「劣等児」認識
   (3)青木誠四郎の「劣等児」認識
   (4)脇田良吉の「劣等児」認識
   (5)東京高師附小の訓導等の「劣等児」認識
   (6)当時の「劣等児」(「低能児」)論に見られる共通認識
  11.2.2 「特別学級」の編制原理
  11.2.3 「劣等児」を顕在化させた要因
  11.2.4 「劣等児」の環境要因としての貧困
  11.2.5 「特別学級」における教育実践の共通点
  11.2.6 「劣等児」の「救済」と国家主義的見地の混在
  11.2.7 実践校同士の交流
11.3 奈良県の事例に見る「新教育」と「特別学級」の関係
11.4 現代における「特別学級」史研究の意義と今後の課題

戦前「劣等児」「特別学級」関連年表/引用・参考文献/索引

【著者紹介】(さかもと・よしえ)1968 年生まれ。大阪女子大学学芸学部人間関係学科卒業(教育学専攻)。2014 年奈良女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了(社会生活環境学専攻)。博士(文学)。2017 年4 月より大阪芸術大学短期大学部通信教育部保育学科特任教授。

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