少年行刑の歴史からみる知的障害者福祉の萌芽

(しょうねんぎょうけいのれきしからみるちてきしょうがいしゃふくしのほうが)

著者:末松惠

発行年月:2022年3月

価格:4,730円(本体4,300円+税10%)

ISBN:978-4-86688-234-5

体裁:A5判・370頁・上製・カバー装

少年行刑の歴史からみる知的障害者福祉の萌芽

(「序章」より)
 近年、社会福祉専門職の職域は、従来の福祉分野にとどまらず、労働・教育・司法・保健医療等へと拡大されつつある。そのなかでもとりわけ、福祉分野と司法分野との連携・協同という古くて新しい課題が注目され、更生保護施策における新たな支援枠組みに関する検討がすすめられている。「古くて新しい」というのは、非行や犯罪に関わった人々の社会復帰に向けた援助は明治大正期にまで溯るのであり、これまでに、出獄人保護事業や感化事業など司法領域における福祉的な対応が模索されてきたということである。また、近代初頭の少年行刑・感化矯正のもとでなされた知的障害者処遇には、処罰にとどまらない保護的・教育的な視点がみられ、ここに知的障害者福祉の萌芽的状況をとらえることができる。しかしながら、これまでの知的障害者福祉研究では、当時の処遇に関する検討が十分になされたとはいいきれない。福祉と司法の連携・協同が模索される現在、福祉的な視点と司法的な視点とが未分化であった近代初頭の知的障害者処遇からは、いかなる示唆が得られるであろうか。本書は、こうした問題意識に依拠しつつ、近代初頭の少年監獄における知的障害者処遇の形成過程を解明することによって、知的障害者福祉研究の進展に貢献することを目的としている。

 少年監獄における知的障害者処遇を解明するにあたり、本研究では浦和監獄川越分監を取り上げる。その理由は、川越分監では、「低能者研究」「低能者特別教授」等、知的障害者に対する処遇がいちはやく実施され、ある一定の組織だったアプローチが展開されていたためである。このことは、川越分監が我が国最初の幼年者対象の監獄として設置され、監獄改良の主眼であった懲治人教育が実験的におしすすめられていたことと深く関連している。またそうした位置づけゆえに、川越分監は「先進川越」として、全国の他の少年監のモデルともされていた。これらのことから、浦和監獄川越分監が知的障害者処遇の嚆矢として、それ以降の少年行刑にも一定の影響をもたらしたことが予想される。そうした意味から、川越分監の諸実践に焦点をあて、知的障害者処遇の起点とその具体的なありようを把握していくことは知的障害者福祉の歴史研究において不可欠な作業であると考える。

目次(抄)・キーワード

【序章】知的障害者福祉の歴史と少年行刑

第一節 少年監獄における知的障害者処遇の形成過程
1 浦和監獄川越分監の実践
2 知的障害(者)のカテゴリー形成
3 犯罪や非行少年中に存在した知的障害者への着目
4 行刑分野における知的障害者処遇

第二節 少年行刑の展開に見る知的障害者福祉の萌芽
1 先行研究(知的障害者福祉/障害児教育/児童福祉)
2 社会福祉の歴史研究からの示唆(一番ヶ瀬康子/更生保護事業・感化教育/福祉実践の両義性の探求)

第三節 研究対象の主な史資料
年次統計書/『監獄協会雑誌』/通史文献

第四節 時期区分と本書の構成

第五節 用語について
知的障害者を表す用語/「幼年ノ者」・懲治人・幼年囚など、その他

【第一章】近代初頭の監獄における精神病者の存在

第一節 明治初頭における監獄への精神病者の収容
瘋癲人/瘖啞者/監獄別房/懲治場

第二節 精神病者処遇の経過
1 精神病者に対する認識の契機
2 「身体保全」言説の登場と『獄務概則』の規程
3 精神病者処遇に関する議論と精神病監の設置(明治31年典獄諮問会/巣鴨監獄)

第三節 精神病者における知的障害者の概念的な分離
1 精神病者処遇における国家医学会のかかわり
2「低脳者」概念の登場

第四節 監獄事業における幼年監獄の建設と教育処遇の推進
1 幼年監獄建設の背景(幼年囚と処遇の実態)
2 懲治場における「強制教育」の推進(強制教育)

【第二章】川越分監・熊谷分監懲治場における幼年者処遇と知的障害者
〈第1期〉1902(明治35)~1908(明治41)

第一節 浦和監獄川越分監懲治場
幼年監獄指定/処遇方針(収容児童の捉え方、懲治場の位置づけ、国家の役割、処遇方針、精神医学・心理学・生理学への期待)/職員体制

第二節 浦和監獄川越分監・熊谷分監
1 処遇の実際(『保護児童ノ研究』編纂、収容児童の「個性」の把握・観察の視点)
2 川越分監における「薄弱ナル児童」の把握(学校医・教師による記述と対応)
3 熊谷分監における補助級(低能組)の取りくみ(「元良氏視覚及ビ聴覚操練器」)

第三節 精神病医学者による熊谷分監収容者の調査(「不良少年調査報告」/三宅鉱一)

第四節 懲治場における知的障害者処遇の特徴

【第三章】川越分監特設少年監における少年処遇と知的障害者
〈第2期〉1909(明治42)~1921(大正10)

第一節 監獄法施行下における少年行刑の新枠組みと知的障害者施策をめぐる情勢
1 刑法の改正と監獄法の制定
2 監獄法における障害者処遇にかかわる条項
3 明治40年代における知的障害者施策をめぐる動向(障害児調査/特別学級の設置/精神病医学における治療教育の実践/救護施設における「低能児学級」の設置)
4監獄事業における「低能者」に関する言説

第二節 少年処遇の概要
処遇方針/職員体制/年次統計書『少年受刑者ノ統計及処遇一班』の編纂と知的障害者の把握

第三節 知的障害者処遇の経過
処遇の契機/障害者の数と概念規定の変化/教育処遇の展開(「低能児ノ取扱」「低能児観察表」「低能者特別教授」)

第四節 「少年受刑者ニ関スル特殊研究」における低能者研究
内面的・個別的要素の把握(観察・実験)/外部的・環境的要素の把握/「低能少年犯罪者教育ノ方針」「訓育ノ標準」

第五節 川越分監特設少年監における知的障害者処遇の特徴

【第四章】川越少年刑務所における少年処遇と知的障害者
〈第3期〉1922(大正11)~1925(大正14)

第一節 1922(大正11)年少年法の制定
職員体制/少年教化の実際

第二節 知的障害者処遇
知的障害者の数/処遇の実際/「心神耗弱者」の八王子支所への分離

第三節 監獄事業における知的障害者施策に関する言説と知的障害者処遇の位置づけ
監獄医・専門的対応の要請/優生思想をめぐる議論/選別的処遇の要請

第四節 川越少年刑務所における知的障害者処遇に関する考察

【第五章】八王子少年刑務所における知的障害者処遇
〈第4期〉1926(大正15昭和元)~1929(昭和4)

第一節 八王子少年刑務所の概要
「特殊少年刑務所」/職員体制/施設設備

第二節 処遇の概要
統計資料の作成(家庭の生計程度、家庭を離れた年齢、実父母を失った事由・時期、教育の状況)/処遇方針(司法省行刑局「心神耗弱者ノ取扱ニ関スル通牒」/八王子少年刑務所「収容者処遇ノ準則」、収容者の分類基準「三ケ個性」、保健技師による医学的検査/処遇の実際(作業、教育、運動・体操及び精神慰安、放免後の保護)

第三節 知的障害者の身体・精神の変化
収容時/後の身体・精神の変化(智能点数、精神状態)

第四節 八王子少年刑務所における知的障害者処遇に関する考察

【終章】少年行刑の歴史における知的障害者福祉の萌芽

第一節 まとめと結論
1 川越分監懲治場から八王子少年刑務所に至る知的障害者処遇の展開
2 処遇上に見出された福祉的な価値理念
「国民トシテ」「社会ニ立ツ」者としての知的障害者/「個人」の認識と把握:「人格ヲ認メ遣ル」という指針/障害による困難状況の「社会」との関連認識/保護と養育という考え方
3 少年監獄における知的障害者処遇の社会的意味
「国民統合」政策下における知的障害者処遇:「良民育成」における顕在化/少年行刑における知的障害者の位置づけ:「社会順応」の意味/知的障害者処遇における排除と統合の両義性/医師による分類と定義:「科学ノ進歩」下における知的障害者の発見/近代社会の形成における対象化・同一化過程

第二節 意義と今後の課題
少年行刑と知的障害者福祉 略年表

注(33頁)/参考文献/あとがき/索引

著者紹介:(すえまつ・めぐみ)1993年から2013年まで、社会福祉法人はぐるまの会生活支援員として勤務。現在、同会評議員、はぐるま農園サポーターズに所属。日本女子大学学術研究員。博士(社会福祉学)。

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