作業療法士養成への遥かな道のり

作業療法士養成における生活支援業務と治療訓練業務との乖離〈長崎純心大学人間文化研究論文叢書3〉

著者:長尾 哲男

発行年月: 2014年11月(大空社刊)

価格:3,850円(本体3,500円+税10%)

ISBN:978-4-283-00959-2

体裁:B5判・124頁・並製・カバー装

作業療法士養成への遥かな道のり

今、本来の作業療法が目指していた、自立(自律)した生活者へ向けた支援の視点に立ち返って―。
この人にしか語り得ない実践の経験と「今」、福祉・医療・介護関係者が謹聴すべき将来への警鐘。

日比野正己「刊行にあたって」より
(本書の特徴の一つは)長尾さんが日本における「作業療法士」の成立と変容の「生き証人」(学生として教師として実践者として)であることだ。 貴重な写真など歴史的資料や歴史的人物らの証言(インタビュー)などを活用した学術書であり興味深い「読み物」にもなっている。(長崎純心大学大学院教授〈刊行当時〉)

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作業療法が求められて久しくなるものの、まだまだ理解され定着してきたとは言えず、作業療法士それぞれが持つイメージも多岐にわたっている。また、その多様性の故に求められる専門性を希求するほどに原点を見失いがちでもあるといえる。(…)
作業という主体的活動を手段とし、生活への支援を基盤としているはずの作業療法が、臨床現場において、セラピスト主導の治療訓練に特化して、回復期リハの場でも作業療法士の指示による動作訓練が常態化してしまっている現状に疑問が強くなってきた。学生たちに理念を訴えつつも現実との乖離に悩むことが多くなったことが、このたび原点に戻り歴史を振り返るきっかけとなった。(…)
昨今、医療経済・介護保険の経営の視点から時流として生活支援の声が外圧として強くなってきてはいる。今、本来の作業療法が目指していた自立(自律)した生活者へ向けた支援の視点に立ち返って作業療法を主体的に見つめなおす時期に来ているように思う。(「あとがき」より)

【目次】

長崎純心大学「人間文化研究論文叢書」の発刊に思う 片岡千鶴子(学校法人純心女子学園理事長)

刊行にあたって 日比野正己

序章 研究の目的・意義・方法
第1節 問題の所在―「生活支援業務」の視点から
1.1 本研究の動機/1.2 用語の検討
第2節 先行研究の検討
2.1 先行研究が少ない理由/2.2 先行研究の実際
第3節 研究の目的・意義・方法
3.1 目的と意義―本研究の課題「治療訓練業務」への偏倚の解明/3.2 「治療訓練業務」への偏倚の解明の研究方法/3.3 本書の構成と資料

第1章 作業療法士資格制度の成立前後の作業療法業務
第1節 職種成立への過程
1.1 「作業療法」の認識/1.2 職能療法としての具体的な導入の始まり/1.3 作業療法士養成の企画/1.4 国立身体障害者更生指導所の業務/1.5 都道府県の更生指導所のリハビリテーション対応の傾向/1.6 海外のリハビリテーション情報の流入と国内の取り組み/1.7 東京大学リハビリテーション部におけるリハビリテーションの導入と実践/1.8 九州労災病院におけるリハビリテーションの導入と実践
第2節 作業療法士の医療職としての位置づけ
2.1 資格制度制定への機運/2.2 作業療法業務の枠組み
第3節 医療点数等による治療訓練型への誘導
3.1 作業療法の診療報酬/3.2 診療報酬改訂による作業療法の位置づけ

第2章 作業療法職務内容の変遷
第1節 勤務先分布の変遷等
1.1 作業療法士の勤務先/1.2 作業療法士の誕生/1.3 職種としての「作業療法士」への切り替えの困難性/1.4 精神科作業療法への導入/1.5 特例受験終了後の状況
第2節 職務内容の変遷
2.1 対象とする疾患/2.2 よく使われる治療技手と目的
第3節 日本とアメリカの学術誌から見る作業療法士活動の動向
3.1 「理学療法と作業療法」誌からの考察/3.2 「AJOT」誌からの考察

第3章 作業療法士養成の変遷
第1節 学校教育と特例受験資格の設定
1.1 リハビリテーション医療の状況/1.2 作業療法士養成の機運/1.3 国家試験の特例受験資格/1.4 作業療法士国家試験の受験者と合格者
第2節 三年制各種学校教育と四年制大学教育
2.1 多様な形態での養成校の設立/2.2 養成校の四年制志向
第3節 教員確保の実際と教員養成
3.1 教員確保の困難性/3.2 外国人教師と医学モデルヘの傾斜の可能性

終章
第1節 結論
第2節 課題
2.1 医療機関での課題/2.2 介護老人保健施設での課題/2.3 教育・研修システムの課題/2.4 医学的リハビリテーションチームの課題/2.5 医療経済依存からの脱却の課題

引用・参考文献/関連年表/あとがき

【図表目次】

(第1章)
表1 受講者の基礎要件
図1 『職能療法の理論と実技』
図2 「半身不随患者―WHO技術顧問ドロシー・大森女史による神筋系回復助長理論による臨床治療」
表2 『職能療法の理論と実技』の内容と割いた頁数
図3 「調節式バイシクルジグソー」
図4 「膝関節骨髄炎患者―股関節の可動制限に対しての可能性の増加と筋力増強を日的とした織物作業」
表3 機能療法士、作業療法士等の養成計画(大村潤四郎、1980)
図5 「Mrs. LawsonとDr上田」(1966)
表4 九州労災病院来訪者リスト抜粋

(第2章)
表5 作業療法士の勤務先分野比率(1975年~1995年)
図6 作業療法士の勤務先分野(1975年~1995年)
図7 作業療法士の勤務先分野(1975年~1980年)
表6 対象とする疾患(1985年)
表7 対象とする疾息(1990年)
表8 治療訓練手技
表9 作業療法の治療目的
図8 「理学療法と作業療法」誌における研究投稿論文の分野別推移
図9 「理学療法と作業療法」誌における特集テーマ分野の推移
図10 「AJOT」誌の論文タイトル年次推移

(第3章)
表10 国際的基準によるPT・OTの養成学校数
図11 第1回学生募集ポスター
表11 作業療法士受験資格取得講習会(1回~11回)受講者数
表12 講習会修了者の作業療法士国家試験(1回~5回)合格者数
表13 養成校の作業療法士国家試験(1回~5回)受験者数と合格者数
図12 東京病院付属リハビリテーション学院の学生の厚生省宛て要望書
図13 東京病院付属リハビリテーション学院の学生のストライキ

【著者紹介】(ながお・てつお)作業療法士。長崎純心大学大学院博士後期課程修了、博士(学術・福祉)。兵庫県リハビリテーションセンター、農協共済中伊豆リハビリテーションセンター、神奈川県総合リハビリテーションセンター、農協共済別府リハビリテーションセンター、長崎大学医療技術短期大学部作業療法学科、医学部保健学科、大学院医歯薬医学総合研究科保健学専攻勤務を経て、九州栄養福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科教授。(刊行当時)

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