江戸時代庶民文庫 84巻 非火葬論ほか

第2期第5回(全5巻・81~85巻)配本所収

解題者:小泉 吉永

発行年月:2020年5月

価格:本体17,000円(税別)

ISBN:978-4-86688-084-6

体裁:A5判・400頁・上製・クロス装

特記:分売可

江戸時代庶民文庫 84巻 非火葬論ほか

【ジャンル】書名(主な作者/刊行年など)
【祭祀(葬祭)】
○非火葬論(安井真祐/享保2年) 非火葬論
○日本養子説・非火葬論(跡部良顕・安井真祐/安政3年)
○葬事略記(角田忠行/江戸末期)
○喪儀略(古川躬行/慶応1年)
○増訂喪儀略(古川躬行/明治4年)
○庶人喪儀式(古川躬行/明治5年)
○上等葬祭図式(常世長胤/明治7年)
○葬儀心得大意(新田邦光/明治11年)

○非火葬論(安井真祐/享保2年) 非火葬論
もと京都の僧侶で、後に還俗帰儒した著者が、父母を火葬した己の後悔を他人に味わわせないために、火葬の起源、火葬の非道と残酷さ、火葬を広めた仏教の矛盾や問題点を指摘した仮名書きの書。益軒から「世教に補ひあること大なり」と評価されたが脱稿から30余年後に刊行された。火葬が「不孝第一の所為」で「人情自然の彜(人が常に守るべき道)」に背く行為であること、「父母を愛しみ敬まふ」のは「良知良能の天然」であり、父母の遺体を大切にするのは「愛敬の心」にほかならないと説く。そもそも火葬は古代中国の極刑であり、火葬で穢れた煙を神国の空にたなびかせるのは最も禁忌すべきものと非難。また「愛敬の本心」や「人情自然の彜」を妄想とみなし、未来応報説や念仏宗の悪人正機説で社会秩序を維持せんとする仏教の教えは、火葬同様に有害無益と論断する。
○日本養子説・非火葬論(跡部良顕・安井真祐/安政3年)
「日本養子説」は、皇統における養子の事例を示して養子の必要とその道理を諭した書。『日本書紀』神代巻(上)の天照大神の勅「其の物根を原ぬれば、則ち八坂瓊之五百箇御統は是、吾が物也。故に彼の五男神は悉く是れ吾が児なり。乃ち子を取りて養しき」を引いて、これを「我国養子の始」とし、以下、成務天皇が日本武尊の子を養子にし
て譲位したことなど皇統における養子の例をいくつか示し、末代においては「気化も薄く、上下男女を生ずる事も古に及ばざれば、子なきものは養子の義なくては叶はぬこと」と述べて養子の必要性を強調し、その心得を述べる。「非火葬論」は前掲の享保2年板と同内容だが、甘雨亭叢書本では、送り仮名・振り仮名を省略・割愛したり天皇名の前を欠字にするなどの改編が見られるほか、甘雨亭主人の跋(5行)を新たに加えてある。
○葬事略記(角田忠行/江戸末期)
老親を持つ者の心構えや神葬祭における準備や儀式全般を述べた葬祭書。危篤の際に、家や自身についての心得や遺言などを全て書き留めるべきこと、親が死去したらすぐに神棚を封じ、柀まき(槙まき、椹さわら)で棺を作ること、神衣(神道の死に装束)や副葬品、納棺、祭壇等についてなどを記す。また、祭主(喪主)が告げる故人「一世の功業」の文例を掲げたり、「葬の後、五十日も過なば、おごそかに墓碑を立るぞ、人の子たるの道にはありける」と説く。親の肖像については「或は歌にても詩にても得意のものを書せ」、あるいは、棺用材の柀については「此木なくば、松の木など用ふべし。檜杉の類用ふべからず」など、本文の随所に割注・補注を施す。
○喪儀略(古川躬行/慶応1年)
冒頭の「葬儀略」で葬儀のあらましを時系列的に詳しく説明し、「葬具」で葬祭用具の説明と図解を掲げ、さらに「襍式」で祭文・木牌・墓碑・喪中心得等を補足した仮名書きの神道葬祭書。病が重く危篤になったら、内外を静かにし、遺言があればこれを書き留め、予め霊璽を造っておき、臨終間際には家の主や葬礼関係者は衣服を改め、手洗い・口漱ぎで身を清め、霊璽を机上に置き、筆と硯を携えて病床へ行き、霊璽に病人の姓名を墨書する。その際、病人に向かって彼の霊を霊璽に遷す旨を密かに告げる(その文言も例示)…という具合に順序立てて葬祭の手順を示す。さらに、霊璽の奉安や祭壇の供え物や飾り付け、臨終後の諸準備、遺体の身支度と安置、また、これらに使用した道具や汚水等の処理についても言及し、さらに、二十四時(埋葬前に遺体を安置する期間で二日間)以降の儀式、出棺から埋葬後までの作法や事後処理までを記す。『喪儀略』に多くの加筆・修正を加えて、巻末に「触穢」「服仮」の附録記事を増補した増訂版が後掲『増訂喪儀略』である。
○増訂喪儀略(古川躬行/明治4年)
前掲『喪儀略』に多くの加筆・修正を加えて、巻末に附録記事等を増補した増訂版。総じて増訂版では、『喪儀略』よりも本文の文字を小さめに記して記述量を増やした箇所が目立つ。例えば、「沐浴」では「或は手巾もて頭の髪より初めて、能々身体を拭ひ、下体に汚穢あらば、腰より已下を洗浄はんもあしからじ」という割注を新たに加える。巻末附録は『喪儀略』に未収録の記事で、人の死穢や無服の殤(七歳以下の死には喪に服さないこと)を始め、弔喪・産穢・月経等の穢れの心得である「触穢」と、近親者の死去に際しての服喪の作法などを記した「服仮」の記事である。
○庶人喪儀式(古川躬行/明治5年)
庶民向けに神葬の基本を記した平易な葬祭書。神葬が「我国ノ風儀りニテ葬祭ヲ行」ことであり、日本の国風はもともと「諸事煩雑カラズ質直ニ簡易カリシ」ものであったが、「儒仏ノ教起テ華飾ヲノミ尚ブ事トハ成タリ」と現状を憂え、「葬祭モ古昔ニ復シテ簡便ニ敦厚ク行ベキ事第一ノ心得ナリ」と日本古来の神葬に基づくべきことを強調し、「恣ニ肉ヲ食ヒ、酒ヲ飲、無頼ナルヲ神葬ト思フ事勿レ」と明言し、近親者はもちろん人の死去に際して「哀情」がないのは人の道ではないと説く。これ以下の本文は概ね『喪儀略』の骨子。挿絵4丁分(木標・諄詞・榊・結灯台、霊璽・机、臥棺・盖・坐棺、霊祭図、墓碑など)を掲げる。
○上等葬祭図式(常世長胤/明治7年)
主に貴人向けの神葬を箇条書きに記し、多くの図解を交えて解説した葬祭書。「官位高キ人等ノ葬祭ニ係テ数度執擬ヒタル記録等ヲ本種トシテ目安ク図式ニ撰定」したとし、「歛具及祭具ノ品物、員数・寸法ニ至ル迄、万事際ヤカニ記載スルト雖モ、総テ失費ニ関係スル事物ハ、其分限ニ応テ増補・節略スルコト喪主ノ意ニ任スベシ」と述べ、本書で示したものが一つの目安であり、喪主の事情に即して適宜判断すべきと断る。葬祭は神職等に全面的に任せよと説いた後、葬祭の手順、神官ならびに教導職等の役割や招魂祭・葬祭の基本的な心得を示し、招魂祭・地鎮祭・入棺・発葬祭・葬所祭・墓所・見滌禊祓・葬後霊祭・追祭について、儀式の段取りや必要な準備について順々に説明し、適宜、葬祭具や祭場風景などの図解を多く掲げる。
○葬儀心得大意(新田邦光/明治11年)
神道修成派の門人向けに編まれ出版された、表紙とも全10丁の簡易な葬儀心得書。同派の教祖、新田邦光が慶応年間に門人に示した葬儀心得の聞書を後に校訂・上梓した。邦光の心得は全14項から成り、①生死は表裏であり、吉凶循環が当然の理である、②生は当世への来臨、死は幽界への帰去であり、懇篤を尽くして死者を送るべきで、葬儀には己の真情を竭つくせ、⑤仏式の葬祭には神代以来の伝統も多く、仏葬を神葬に改めることは困難ではない、⑪私が説く神道修成派の法に従って葬儀を行えば死者の霊は神となる、⑫墓には木を植えよ、世間の火葬は野蛮だから決して用いるな、⑬眼前の神道の葬法を無視して外国の葬法を用いるな、⑭祝詞の奏上が望ましいが、死者の行状を懇切に記した俗文でもよい、など。末尾の増補は、天皇と同様に皇国民が全て神葬にすべきことや、神道教導職が葬儀に際して金品を得てはならないことなどを説く。

解題者紹介:往来物研究家、往来物倶楽部代表、立正大学・人間総合科学大学非常勤講師、学術博士。(原版作者は各巻参照)

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